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子夢子明バックナンバーから

第41号 (2002年秋号) 掲載

カンボジアの子ども買春の現状とNGOの取組み

 甲斐田万智子(当センター共同代表)

「私の名前はN.C.です。バッタンバン州のバナン県に住んでいました。ある夜、家から離れた家のビデオで映画を見ていたら、すごく遅くなってしまったので、家に帰るのが怖くなりました。するとある女性から、うちに泊まりなさいと説得されました。けれどもその人はプルサット州の買春宿に私を売りに連れていったのです。その後トゥールコークの買春宿に売られました。そこで、気を失うまで棒で殴られ、電気ショックをかけられました。その後警察に救出され、AFESIPのセンターに保護されました。そこで4ヶ月滞在し、タクマオにあるHCCのシェルターに保護されました。今私はHIVに感染しています。HIVに感染している人にはたくさんのケアと精神的なサポートをしてほしいと思います。」

(CAMP【子ども参加を支援する若者組織】の報告書より)

子どもの売春・子どものトラフィッキング・性虐待の現状と原因

カンボジア政府やユニセフ、国際NGOの取り組み

外国人加害者の処罰

子ども買春問題に取り組むNGOの取り組み

 

 

子ども買春・子どものトラフィッキング・性虐待の現状と原因

 現在、カンボジアには8万人から10万人の人がセックス産業に従事しており、そのうちの約30%が18歳未満です。ベトナムの少女が性的目的のために人身売買されてくることが多いのですが、カンボジアからタイ、マレーシアに売られていく少女もかなりの数になります。2001年には毎月1650人の不法滞在のカンボジア人がタイから送還されましたが、その半分が女性と子どもです。エイズへの不安から性産業において処女に対する需要がたかまり、買春宿に売られる子どもはどんどん低年齢化しています。この結果、多くの子どもたちがHIV/エイズに感染し、2001年初頭までにエイズで亡くなった子どもの数は2,592人にも上ります。以前は、抵抗する少女たちに暴力や電気ショックを与えて売春を強要していたそうですが、現在は買春宿に連れてこられるとすぐに麻薬を打って中毒にさせます。そのため、せっかくNGOが子どもたちを救出しても、また買春宿に戻ってしまう子どもも多くいるそうです。また、暴力的なポルノビデオの普及により、子どもへのレイプが増加しており、毎月少なくとも5,6人が被害に遭っていますが、その9割が法律による裁きを受けていません。(以上の数字は子どもの権利財団発行「第1回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議後のカンボジア」より)
これらの原因としては、やはり人口の37%が貧困ライン以下という現実があります。特に1990年の経済の自由化により貧富の差が拡大しています。また、20年以上の内戦により、家庭崩壊や地域の精神的絆が壊されたことも要因として挙げられます。また、識字率が低く、情報が伝わらないために農村に住む少女や親がだまされやすいということもあります。さらに、大きな要因として挙げられるのが、警察、検察官、裁判官が買春宿のオーナーなどから買収されて取り締まりが十分おこなわれないという法の執行力の弱さです。


【カンボジア・ユニセフが作ったテレビ広報の一場面。買春宿で殴られる少女。売られた子どもたちがさらされる危険や、子どもを売買する者は犯罪者として逮捕され厳しく罰せられることを示し、人身売買を予防しようとしている。】


 

 

カンボジア政府やユニセフ、国際NGOの取り組み

 カンボジア政府は、1996年の「第1回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」以降、トラフィッキングを規制する法律やトラフィッキングに取り組む5ヵ年計画を策定するなど対策をとるようにはなりました。空港で外国人観光客に渡されるパンフレットには「子ども買春は犯罪であり、処罰されます」というメッセージが大きく書かれ、このような行為を見た人が通報できるように、フリーダイヤルのホットラインの番号が記載されています。さらに最近は、買春の温床となっているカラオケバーを閉鎖する法令を出したり、街頭に立っている買春に携わる女性たちを取り締まったりしていますが、子どもを性の対象とする需要は高まる一方で、性産業自体はますます盛んになっています。農村に住む貧しい家庭の子どもや少女たちは、近くの知人からいい仕事があると騙されたり、結婚しよう、と恋人から甘い誘いをかけられたりしてプノンペンに連れてこられます。

 このような状況に対して、ユニセフや国際NGOは、警察官を研修するビデオや人を買春宿に売ることは犯罪であることを強く社会に訴えるテレビ用広報を製作したりしています。ユニセフは、被害を受けた子どもたちの弁護にあたる弁護士への研修もおこなっています。

 

外国人加害者の処罰

 外国人加害者の処罰もようやくなされるようになりました。この7月から8月にかけて、イタリア人、イギリス人、オーストラリア人の有罪判決が出ました。

 しかし一方では、数十人の被害者がいると見られているにもかかわらず、少年たちの証言や裸の写真が性的虐待の証拠としては認められず、逮捕されたフランス人が無罪となったケースもあります。

【買春宿で11歳の少女と性行為をしているところを現行犯で逮捕されたイギリス人の新聞記事写真(カンボジアデイリー2002年8月1日付)】

 

子ども買春問題に取り組むNGOの取り組み

 今回、子ども買春問題などに取り組む8つのNGOを訪問しました。いずれも買春の犠牲となった子どもたちの救出や保護、トラフィッキングの予防、この問題における意識啓発などの分野で優れた活動をしていました。今回はOur Home、HCC、CWDAの3つを紹介し、残りのNGOについては次回紹介します。

NGO・Our Home (私たちの家)

 最初に訪問したのは、「Our Home(私たちの家)」という、虐待を受けた少年たちが保護されている施設を運営するNGOです。保護された子どもたちはカウンセリング、職業訓練、麻薬中毒の医療ケアなどを受けています。彼らが運営している3つの施設のうちの一つで、特にぺドファイル(子ども性虐待者)によって性的搾取を受けた子どものための施設を訪問しました。そこには、裁判で証言し、加害者からの脅しなどの危険にさらされている3人の少年が保護されていて、彼らから話を聞かせてもらいました。

ケース1:親がアルコール依存症で生きていくために仕方なく・・・。

 最初に話をしてくれたのはコオット君という少年です。以下は、彼の言葉です。「この施設にきて2ヶ月。兄弟は4人で僕は2番目。兄は別のシェルター(回復センター)にいます。家族とともに王宮のそばに住んでいましたが、両親はアルコール依存症で今はどこに暮らしているかわかりません。父は別の人と再婚し、最後に会ったのは3年前。母は精神病を患っていたために家を出ました。ぼくは長い間、身体を売って暮らさざるをえませんでした。路上ではグループで暮らしていましたが、盗みを強要され、拒否するとシンナーや麻薬を吸わされました。外国人ツーリストが、バイクタクシーに子どもを連れてくるように要求し、相手となっていました。ここにくるまでは楽しいことは何もありませんでした。すべてがいやだった。楽しくなったのは、ようやく最近のことです。午前は補習授業を受け、午後は野菜栽培をしています。将来は、修理工になりたいと思っていますが、もしも夢がかなうとしたら、学校の先生になりたい」

 このNGOの代表は、「彼はとにかく働き者で、いつも誰かを助けたり働いたりしています。ほかのスタッフが、もう働かなくてもいいから学校に行きなさいと言わなくてはならないくらいです」と話していました。

ケース2 ボクは被害者であり、何も悪いことはしていない

 次に話をしてくれたのは、13歳のパンダムという少年でした。彼は、懲役10年の刑を受けたイタリア人ペドファイルを訴える裁判で中心となって証言した子どもでした。「1年前からここにいます。両親は王宮の近くでくらしています。父は足を一本失ってしているため、妊娠7ヶ月の母が物売りをして暮らしています。証言するのは大変じゃなかったです。なぜなら、僕は被害者で、何も悪いことはしていないから。加害者を有罪にしてほしかったから、裁判所にいることも質問されることも怖くもなかった。僕が川のそばの茂みの中でそのイタリア人といるときに警官がきて、捕まったんです。服を着ようとしたら、警官から裸のままいるように言われて、たくさんの写真をとられました。それは午後3時ごろで、人が集まってきて恥ずかしかった。でも警官が、君は被害者で、裁判の証拠にするのに必要だと教えてくれました」彼は、もし自分が裁判官だったら何年の懲役にしたい?との質問に「20年」と答え、「将来は通訳になりたい」と話してくれました。

 3人目のケースは、裁判で無罪判決が出たフランス人から性的虐待を受けていた少年でしたが、今後も裁判は続くと予想されるため、彼がどのような虐待を受けたかということはここで紹介することはできません。このケースに関して無罪判決が出たことは、多くのNGOが憤りを感じており、新聞度々取り上げられていました。

HCC (Healthcare Center for Children) 子どものためのヘルスケアセンター

 HCCとは、子ども買春やトラフィッキングの問題にかなり積極的に取り組んでいるNGOで、3日目に訪問しました。ここのプログラム・ディレクターのソクサン氏は横浜会議にも参加された方で、彼は全体説明のあとにサバイバーの少女たちが回復するセンター(リハビリテーションセンターとよばれている)も案内してくれました。ここでは、買春宿に売られた子どもや売られそうになる子どもの救出活動をおこなっていますが、2000年から2002年にかけて189人を救出し、そのうち8人は買春宿に売られる前の子どもたちだったそうです。スタッフはパトロールチームと救出チームに分かれて、客を装って子どもを見つけだしています。しかし、警官は買春宿のオーナーからわいろを受け取っていることが多く、せっかく警察に通報しても、その警官が買春宿のオーナーに事前に知らせ、子どもたちを隠してしまうことが多いとのことでした。性産業に巻き込まれる子どもが増加する原因は、警察、裁判所、検察の汚職だとソクサン氏は考えています。それで、タクシーの運転手や住民から情報を丁寧に集めて、真剣に捜査をする警官を見つけていくことが大事だとのことでした。住民は非常に貧しい生活をしているので、子どもが売られているような情報を知らせてくれた場合には電話代として1ドルを払っています。その後、少女たちを保護し、買春宿のオーナーを訴えることになった場合は、被害にあった少女たちの身を守るために回復センターで保護します。
回復センターでは、さまざまな職業訓練をおこなっていました。それぞれの少女たちが暮らす村ではどのような仕事が持続的にやっていけるものなのか、マーケティング調査で見極めてから、訓練するとのことでした。訪問したときは、手織り、レース編み、刺繍をしていましたが、庭にはさまざまな野菜も植えられており、それを食材にして調理していました。現在、このセンターに保護されている少女たちは35人。これまでに保護された少女のなかに、HIVに感染した少女は7人いて、そのうち2人は亡くなったとのことでした。スタッフはカウンセリングのトレーニングを受けて、精神的ケアもおこなっていました。 


【HCCのソクサン氏(右)と代表のアクラ・コウ氏(左)】

 HCCは、村での予防教育にも力を入れていました。村人に、人身売買をする人間がよく使う嘘の話や、買春宿に連れていかれるとどのような結果になるかについて知らせたり、子どもの権利条約についての啓発活動をしたりしています。そして、友人から友人へ情報を伝え合うネットワークを広げるだけでなく、家庭の収入を上げて子どもを売らなくてもすむようにするため、地域のニーズに合わせて稲作や養鶏養豚、手工芸などの技術指導もしているそうです。

カンボジア女性開発協会

CWDA (Cambodia Women's Development Association)

 CWDAでは、キエン・セレイ・パルさんという代表の方にお話をうかがいました。この団体は、1993年に設立されて、26人のスタッフと300人のコミュニティボランティアが、女性の自立のためにエンパワメントをするというビジョンのもとで活動しています。CWDAもやはり性被害にあった少女たちを救出し、保護し、職業訓練をおこなっていますが、ある程度教育を受けた少女たちにはコンピューターを教えています。
CWDAは人身売買を防止するための教材づくりに非常に熱心で、制作にはグラッフィクデザイナーもかかわり、さまざまな工夫がこらしてありました。パルさんのお話でとても印象に残ったのは、「誰もが運動に参加する権利をもっているが、まずは住民自身が情報を得なくてはならない。村人が自分たちで人身売買を防げるようになることをめざしているが、そのために彼らが自ら問題を見つけ、優先順位をつけていくことが大切。そして教材を村人自身で作成し、情報センターも自分たちで運営できるように訓練している」というものでした。

 このほか、CWDAは社会から差別を受けているセックスワーカーの子どもたちがその環境を抜けだすことができるように、支援活動をおこなっています。その際、彼女・彼らがどんなことを望んでいるかを絵で表現するワークショップを実施しています。

【人身売買の被害にあった少女が作ったきり絵 (CWDA発行:Selling Noodles The Traffic in Women and Children in Cambodia より)】

 


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